吸入ステロイド薬は、小型容器に入っており、息を吸いながら口の中に噴霧します。気道の患部に直接届いて働きます。
ほかのどの薬よりも気道の炎症を抑える力が強く、程度の差はあれ、ほとんどの人に効きます。
ぜんそくは気道の粘膜が過敏なため、ほこりやたばこの煙、気候の変化などを引き金に気道が狭まり、呼吸困難を起こす病気です。以前はこうした一過性の発作の病気とみなされましたが、80年代後半から、おおもとの原因は気道粘膜の慢性的な炎症であることが明らかになってきました。
ぜんそくが糖尿病や高血圧と同じような慢性病だとわかって、治療の力点は、発作を鎮めることから発作を予防管理することへ移りました。
日本アレルギー学会は93年に、ほこりの中のダニへのアレルギーやたばこといったぜんそくの悪化要因を取り除くことを前提にしたうえで、吸入ステロイド薬を第一選択にした治療ガイドライン(指針)を発表しました。この薬を軽症でも使ってよいとしています。
軽症から吸入ステロイド薬を使う根拠に「気道壁リモデリング」の予防を挙げています。この現象は、気道が長い間炎症にさらされていると、気道壁が厚く硬くなることをいいます。
こうなると、どんな薬を使っても元に戻らず、絶えず息切れがするようになります。これを防ぐには、吸入ステロイド薬などを早めにきちんと使った方がよいのです。
心配されるステロイド薬の副作用は、吸入薬の場合、飲み薬や点滴薬など全身投与のものに比べ格段に少ないです。ステロイド薬を長期に飲み続けることが多かった重症患者は、吸入薬を使うことで副作用を軽くできるようになりました。通常の量を使うなら、全身性の副作用はまず心配ありません。必要な場合に多めに使い続けても免疫力は落ちず、むしろ炎症を抑えることで、風邪など気道感染が起こりにくくなります。